お酒の話

呑んでいる最中に記憶が飛びますが、呑んだお酒の可能な限りの覚書きです。

日本酒をメインに、ビール、ワイン、泡盛を呑むことが多いです。

2012/04/17

榎酒造(2009年11月訪問)




2009年の12月に書いたもので、榎酒造のお酒を贈る時に一緒につけてお渡ししているものです。故あってUPします。


榎酒造





酒どころで知られる広島県。呉周辺にもたくさんの酒蔵があります。呉から橋を渡った倉橋島には榎酒造という小さな酒蔵があります。
今回はそこにお邪魔した時のお話です。


お邪魔した榎酒造は、平清盛が開削を1日で終わらせるために沈む夕日を招きもどしたという伝説で有名な音戸の瀬戸がある倉橋島の音戸町にあります。


呉駅から2~30分、バスに揺られ渡船口で下車。片道70円を払い、日本一短い航路を渡って倉橋島へ…





なんてことしなくても、本当はくるくる脚で有名な音戸大橋を渡れば、もう少し酒蔵の近くまで行けます。(その場合は音戸市民センター前で下車)


船を降りたらそこから海を左側に眺めながら歩くこと10分ちょっとで酒蔵に到着します。





榎酒造の創業は明治32年。呉では華鳩という日本酒で知られており、酒品評会でも数々の受賞歴を持つ酒蔵ですが、最近では漫画などで話題の貴醸酒を、日本で最初に醸造した所としても有名です。
私たちが最初にお邪魔した日より20日ほど前には、中田英寿がやってきたとのこと。貴醸酒ファンだそうです。


私たちが最初に頂いたのはは華鳩でした。これといって香りが高いとか個性が強そうなお酒ではないのに、口に含んだら花がパ~っと開くようなイメージの味で、とてもおいしかったのを覚えています。嫌味がなく、強く主張するわけでもないのに、でもしっかりしていて花もあるお酒でした。


次に頂いたのが、貴醸酒ブレンドされた濁り酒です。もともとにごり酒は好きな方ですが、最近ありがちな色形はにごりだけど、味は薄っぺらい物とは違い、しっかりとしたベースで甘味と酸味を兼ね備えたとてもおいしいものでした。


この酒蔵の特徴は、しっかりとしたベースに心地よい酸味とキレ。そして絶妙なバランス。とってつけたような香りや艶やかさはなく、辛口でも甘口でもお酒の中から美味しさが溢れてきて、素直に美味しいと思えるお酒です。例えば貴醸酒。酒度(+の数値が高くなるほど辛口といわれています)-42と日本酒の概念を越えた甘口酒なのですが、しつこくない甘さですっきりしています。逆に初呑みきりは+6と辛口ですが、こちらも尖った辛さではなくふくよかさを感じるお酒です。


私は普段、酒度だと+2~4辺りのお酒を好んで呑んでいるのですが、正直-40なんて想像がつかないんですよ。日本酒でフルーティってあっても、『あれ?』なんて思うことはざらだし。気になるけど、貴醸酒はちょっと試してみるという値段ではないので『う~~ん』と考えているうちに、酒蔵に行ってしまえば有料を含め、呑んだことがないお酒も試飲できるかもしれないと思ったんです。調度、どうせお届けものをするなら、広島の美味しいものをお届けしようと考えて日本酒を探していた時だったので、思い切って榎酒造に押し掛けたのです。 


中に入ると部屋の真ん中に大きなテーブルがあって、その上に日本酒の瓶が何本かありました。





試飲できるようなのでお願いしてみると、『何からにしましょうか?』とのこと。
テーブルの上のお酒を勝手に試してくださいと言われると思っていたので、ほげ?としていると、冷蔵庫からお酒を取り出し、しかも、瓶を開けようとしているので、『そんなの勿体ないです』と言えば、『良いんですよ。残りは家で呑みますから』と惜しみなく振舞って下さる。
それから2時間、おそらく大抵のお酒は頂いたのではないでしょうか?


最初に頂いたのが華鳩の純米酒です。そして生?。これはスローフード燗酒コンテスト2009年の金賞受賞酒。最初は常温で頂いたのですが、榎酒造としては若干辛口め、適度な酸味でさらっとした呑み口だがボディはしっかりとした日本酒らしい味です。生?は酒蔵さんに住みついている酵母菌でじっくりと手間をかけて作られたお酒です。この話はまた後ほど少しだけでてきます。


その後、貴醸酒もどうぞと、-40度越えの世界に飛び込むことになるのですが….その前に貴醸酒について簡単に説明しますと、仕込み水の代わりに清酒をいうようで、榎酒造では三段仕込みの最後、留添えで、水の代わりに純米酒を入れているそうで、酒で醸すため、酵母のアルコール発酵がゆっくりと進み、エキス分の多い濃醇で香味豊かなお酒に仕上がるそうです。貴腐ワインと同じ甘味成分を持つ、濃密で上品なお酒です。





写真はこれもどうぞと出して下さった貴醸酒の生にごり酒。
私が呑んだ貴醸酒ブレンドのにごり酒は火入れがしてありますが、こちらはまさに今ぶくぶくしている状態です。
すでに封が開いていたのもあったのに、折角だから、今しか味わえない、泡シュワシュワ状態をどうぞと、四代目社長さんが自ら封を開けて下さいました。


呑んだことがないにごり酒でした。口に含むと甘酸っぱくて、お酒というよりフルーティでクリーミーな泡のデザートを頂いているような、高級なお店でフランス料理でも食べているような(行ったことはありませんが)不思議な食感です。にごり酒としても美味しいのですが、何か特別なこういう存在という感じです。貴醸酒ブレンドでも十分おいしかったのに、さらにすごいのが出てくるとは。


『にごり酒を、広島で最初に作ったのもうちなんだよ』
と三代目社長さん。


『こういうお酒を造れないかな?こうやったらどうなるのかなって試すのが好きなんだ。それでいろいろやってみたの』


それは貴醸酒についても同じで、エリザベス女王を招いた晩餐会で、日本なのに乾杯にワインはないでしょう?という事で誕生したのが貴醸酒。その貴醸酒の醸造法が公開されたとき、当時日本で唯一製造に踏み切ったのが榎酒造でした。


最初の頃は日本酒らしからぬ色と甘さで売れなかったようですが、2008年度IWC(ロンドンで行われるワインコンペディション)のSAKE(古酒)部門で8年熟成古酒がトロフィーを受賞するなど、とても高い評価を受けています。



(貴醸酒 古酒 7年物と8年物)


しかし、三代目社長にとっては、そこで満足している訳ではないようで…
『貴醸酒は海外にもお客さんがいるんだけど、ある日ね、モンドセレクションをあげようか?って言われたんだよ』
モンドセレクションに応募してくれれば、賞を差し上げますという話があったそうですが、モンドセレクションには条件があって、技術工程的に守り続けている事柄が不可欠だそう。しかし、


『これから貴醸酒を使っていろいろ試してみたいと思っているのに、そんな決まり事なんか作って縛られたくないから断った』
とのこと。


『これはね、この人(三代目社長)の道楽なのよ』と奥様。


貴醸酒にはたくさんの種類と、楽しみ方があるのはそれ故なのですね。


『貴醸酒はね、アイスクリームにかけても美味しいんだよ』
と、バニラアイスを持ってきて下いました。





アイスクリームは普通のバニラアイスとのことでしたが、今までもアイスにお酒をかけたものは何度も食べてきたものの、これはアイスクリーム+お酒という感じではなく、最初からこういう食べ物が存在したっていうぐらいのマッチ感。甘味と酸味とちょっぴりビターな感じがとてもおいしかったです。勿論、そのまま呑んでも美味いです。


その後、新酒から20年物の古酒、オーク樽貯蔵、リンゴ酸入りのさわやかタイプまでいろいろ頂きました。どのお酒も共通する点は甘さとキレの良さとフルーティなところ。
これが、リンゴ酸入りのさわやか貴醸酒の場合、ワインや果実酒のような感じですが、ワインよりマイルドで、日本酒をワイン風にしましたというのではなく、かといってワインでもなく、こういう美味しいお酒という感じです。
これが熟成されていくと、フルーティさは円熟味を増し、高級ドライフルーツ、あるいはそれを使ったケーキを食べたような感覚。新酒とは違ったフルーティさと香ばしさを兼ね備えています。


『お酒をちゃんと作ったから、熟成させても耐えられるし、もっと美味しくなっていくの』


大使閣下の料理人という漫画で取り上げられた20年物が最古酒となっていますが、実は中に入っているものは20年以上過ぎているとのこと。(20年物のラベルがあるから貼っているらしいです)オーク樽貯蔵はウィスキーやブランデーのようともいえますが、アルコール度数が低いからか、アルコールとしての強さはなく、まろやかで呑みやすい感じです。


そして再び日本酒の世界に戻ります。






『体に優しいお酒というとね、生もとはね、ぬる燗が最高なの』


そういうと、今度はぬる燗を御馳走して下さいました。
湯せんでじっくりとほんのり温めています。
正直、私は燗をあまりおいしいと思ったことはないのですが、これはしみじみと美味しく、例えるなら、お風呂に入った時の気持ちよいときの『ほっ』という感じです。


生もとには純米のほかに純米吟醸もあって、2度目にお邪魔した時に試飲させていただいたのですが、こちらは純米の良さはそのままで、もう少し上品に仕上げたという感じ。酒蔵で精米できるようにしているので、米のうまみを活かした磨き方ができるとのこと。


2回目にお邪魔した時は、しぼり花ハト八反錦純米吟醸無濾過生原種というのもありまして、1回目に来た時に試飲もせずに買った初呑みきりが美味しかったので、それを買いに行ったのですが、このしぼり花ハトもとてもかわいらしくいいお酒で一目ぼれ。初呑みきりは+6もあるように思えない呑み口と、しっかりとしたボディを合わせ持つお酒ですが、しぼり花ハトはフレッシュさが特徴ですね。どちらもバランスが良いです。


こんな美味しいお酒を造るのは、四代目社長をはじめとする4人の若き蔵人。率いる藤田杜氏は、前の杜氏がガンで亡くなり、急遽、5年目で引き継いだと同時に4冠(全国新酒鑑評会金賞・広島国税局主催新酒鑑評会優等賞 (広島県第一位)・広島県酒類品評会第一位 ・広島杜氏組合自醸酒品評会第一位)を達成してしまったという若き天才杜氏。
『この男は変わった男でね、この間は畑を借りて米を作っていたよ。勉強熱心で頭が柔らかいのが良い。こっちが持ちかけたことをできないとは言わない』
こうやって、どんどんと新しいお酒が生み出されていくのでしょう。しかも、小手先の風味づけは一切せずに、きちんと丁寧に造られたお酒。
それにしても、広島の呉(音戸)にこんな酒蔵があったとは。榎酒造はどこかにありそうで、でもどこにもない優しくて美味しいお酒を造る素敵な酒蔵でした。

榎酒造株式会社

住所:広島県呉市音戸町南隠渡2-1-15
電話:0823-52-1234
URL:http://hanahato.ocnk.net/

通販も行っていて、1万円以上の購入で送料が無料になります
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